「七転び八起き(ななころびやおき)」。私たちはこのことわざを、失敗しても決して諦めず、何度でも立ち上がる不屈の精神の象徴として使います。スポーツ選手が逆境を乗り越えた時、事業家が何度も倒産の危機から這い上がった時、「まさに七転び八起きだ」と称賛しますよね。では、そもそもなぜ、私たちは『転ぶ』ことを避けられないのでしょうか? 実は、達人ですら失敗が『必然』であることは、科学的に説明できるのです。

しかし、もしこの「何度も立ち上がる力」が、特別な人だけの才能ではなく、誰でも学び、育てることができる科学的な心のメカニズムだとしたらどうでしょう?
実は、このことわざを心理学、特に「モチベーション理論」の視点で見ると、単なる精神論では片付けられない、全く新しい側面が見えてくるのです。今回は、誰もが持つ「折れない心」の原石を、心理学の知見を使って磨き上げる方法を探っていきましょう。
🧠 クイズで腕試し!
まずは頭の体操です。この記事のテーマである「七転び八起き」の精神。失敗を乗り越え、目標に向かって何度も立ち上がる力を心理学的に支える概念として、最も適切なものは次のうちどれでしょう?
- 認知バイアス
- 防衛機制
- モチベーション理論
↓ ↓ ↓ ↓
答えと解説
正解は……3番の「モチベーション理論」でした!
「え、モチベーションって『やる気』のことでしょ?当たり前じゃない?」と思った方もいるかもしれません。しかし、心理学におけるモチベーション理論は、私たちが思うよりずっと奥深く、そして「七転び八起き」の本質を的確に説明してくれる強力なツールなのです。
記事のポイント:「折れない心」を科学するモチベーション理論
「七転び八起き」を体現できる人と、一度の失敗で心が折れてしまう人の違いは、根性の有無ではありません。心理学的に見ると、そこには大きく分けて2つの「心のエンジン」のかかり方の違いがあります。
1. 自己効力感(セルフ・エフィカシー):『自分ならできる!』という自信
これは、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「ある状況において、自分は必要な行動をうまくやり遂げられる」と信じる力のことです。
例えば、補助輪なしの自転車に初めて乗る子供を想像してみてください。何度も転びますよね。まさに「七転び」の状態です。しかし、多くの子供は泣きながらもまた自転車にまたがります。なぜでしょう?
それは、「さっきより少し長く進めたぞ」「今度はペダルをこう漕いでみよう」「お父さんが支えてくれれば、きっとできる」といった、小さな成功体験や成功への期待感が、「自分なら、いつか必ず乗れるはずだ」という自己効力感を育んでいるからです。
失敗を「自分はダメだ」という最終宣告と捉えるのではなく、「ゴールに近づくための一つのデータ」と捉えられるかどうか。この差が、七回、八回と挑戦を続けられるかを分けるのです。
2. 達成動機:『困難を乗り越えたい!』という欲求
もう一つは、「より高い目標を立て、それを自分の力で成し遂げたい」という内的な欲求です。これが強い人は、簡単な成功よりも、困難を乗り越えた末の達成感に大きな喜びを感じます。
まるで、ロールプレイングゲームで何度も負けるような強敵(ボス)に挑み続ける感覚に似ています。「あと少しで倒せそうだ」「次はあの技を試してみよう」と、攻略法を考えること自体が楽しくなり、失敗が挑戦への燃料に変わっていくのです。
つまり、「七転び八起き」できる人とは、生まれつき根性がある特別な人なのではなく、
- 「自分ならできる」と信じる力(自己効力感)を持ち、
- 「この困難を乗り越えたい」と心から願う(達成動機)
という心理的なメカニズムがうまく働いている人なのです。そして、この2つの力は、意識的なトレーニングによって誰でも高めることができます。
- 小さな成功体験を積み重ね、自分を褒める
- 少しだけ難しい、でも達成可能な目標を設定する
- 失敗の原因を「自分の能力不足」ではなく、「やり方や準備」に求めることが大切です。
こうした小さな工夫が、あなたの「七転び八起き」を科学的にサポートしてくれるのです。
より効果的な『やり方』を考える上で、一つの行動で複数の成果を目指す戦略的思考も役立ちます。詳しくは、こちらの記事で解説しています。

📜 深掘り・豆知識
「七転び八起き」の由来
このことわざの正確な由来は定かではありませんが、古くから日本の民衆に親しまれてきました。特に、何度倒しても必ず起き上がる**「だるま」**は、このことわざの象徴として有名です。だるまは、中国禅宗の開祖である達磨大師が9年間も壁に向かって座禅を続けたという「面壁九年」の厳しい修行の姿がモデルとされています。その不撓不屈の精神が、起き上がり小法師(こぼし)と結びつき、「七転び八起き」の縁起物として広まったと言われています。
心理学の雑学:成功者の共通点「グリット(Grit)」
最近の心理学で、「七転び八起き」と非常に関連が深い概念として注目されているのが**「グリット(Grit)」です。心理学者のアンジェラ・ダックワース博士が提唱したもので、日本語では「やり抜く力」**と訳されます。
グリットとは、単なる情熱や粘り強さだけを指すのではありません。**「長期的な目標に向けた情熱と、それを支える粘り強さ」**を合わせた概念です。ダックワース博士の研究では、ビジネス、学問、芸術、スポーツなど、あらゆる分野で大きな成功を収める人々は、生まれ持った才能やIQよりも、この「グリット」が非常に強いことが分かっています。
まさに「七回転んでも、八回目に起き上がる」ことを、長期的な視点でやり続ける力。それがグリットであり、現代版「七転び八起き」の科学的定義と言えるかもしれません。
まとめ
いかがでしたか?今回は、「七転び八起き」ということわざを、心理学の「モチベーション理論」という視点から掘り下げてみました。
この記事のポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 「七転び八起き」は単なる根性論ではなく、心理学の「モチベーション理論」で科学的に説明できる心の働きである。
- その中心にあるのが、「自分ならできる」と信じる自己効力感と、「困難を乗り越えたい」と願う達成動機。
- これらの力は、日々の意識や行動によって誰でも育てることができる。
失敗は誰にでもあります。大切なのは、その後に「もう一度だけやってみよう」と思える心のエネルギーをどうやって生み出すかです。「自分には根性がないから…」と諦める前に、まずは小さな成功体験を一つ、自分にプレゼントしてみてはいかがでしょうか。そもそも新しい挑戦を始めること自体が難しい、挑戦しても三日で続かない…と感じる方は、その心理メカニズムと具体的な対策を解説したこちらの記事をぜひ。

さて、あなたにとっての「七転び八起き」の経験は何ですか?そして、その時あなたを支えてくれた「心のエンジン」は何だったでしょうか?ぜひコメントで教えてください!
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