一つの石を投げて、二羽の鳥を同時に仕留める。
「一石二鳥」ということわざは、誰もが知る「一つの行動で二つの利益を得る」という意味で使われます。例えば、健康のために始めたジョギングで、思わぬ友人ができた。これはまさに「一石二鳥」の幸運な出来事ですよね。
しかし、このことわざを、社会科学、特に経済学の視点で見ると、単なる幸運ではなく、実は非常に賢い「選択」の結果であることが見えてきます。それは、私たちの日常に隠された「あるコスト」を最小化する、極めて合理的な戦略なのです。
今回は、この「一石二鳥」という現象を経済学の概念で読み解き、偶然の産物ではなく、意図的に生み出すための思考法をご紹介します。まずは、肩慣らしのクイズから始めましょう。
【クイズ】
ある行動を選んだことで、「選ばなかった他の選択肢」から得られたはずの利益のことを、経済学では何と呼ぶでしょうか?
- サンクコスト(埋没費用)
- 機会費用(Opportunity Cost)
- インセンティブ(誘因)
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
解答と解説
正解は、2番の「機会費用(きかいひよう)」です!
「サンクコスト」は、すでに支払ってしまい、もう取り戻せない費用のこと。「インセンティブ」は、人の行動を促すための「動機づけ」や「報酬」を指すので、今回は不正解です。
ポイント:失われた可能性を最小化する思考法
では、なぜ「一石二鳥」が「機会費用」と深く関わっているのでしょうか?
機会費用とは、平たく言えば「何かを選ぶことで、諦めた選択肢から得られたはずの最大の利益」のことです。
少し難しいので、物語で考えてみましょう。
あなたの手元には1時間と1000円があります。選択肢は二つ。
A: 最新のビジネス書を読む(自己投資) B: 友人とカフェでお茶をする(リフレッシュ)
もしあなたが「A: ビジネス書を読む」を選んだら、その機会費用は「B: 友人とお茶をしてリフレッシュする」という価値になります。逆にBを選べば、Aで得られたはずの知識が機会費用です。私たちは常に、何かを選び、何かを失いながら生きています。この「失われた可能性」こそが、機会費用なのです。
ここで「一石二鳥」の出番です。 「一石二鳥」は、この機会費用を極限までゼロに近づけ、さらに追加の利益を生み出す、非常にクレバーな戦略と言えます。
例えば、多くのビジネスパーソンが実践している「通勤時間中の学習」。これは「一石二鳥」の典型例です。
- 行動: 電車で移動しながら、オーディオブックで勉強する。
- 得られる利益①: 本来の目的である「通勤」を達成する。
- 得られる利益②: 新しい知識やスキルを習得する(自己投資)。
もし、あなたが電車の中でただぼーっと過ごしていたら、その時間の機会費用は「学習によって得られたはずの知識」になります。しかし、学習を組み合わせることで、その機会費用を消滅させ、さらに「知識」というリターンを得ているのです。
これは、単なる「ながら作業」とは少し違います。ポイントは、「本来なら価値を生まない、あるいは失われるはずだったリソース(時間やお金)を活用して、別の価値を創造する」という視点です。
他にも、
- 趣味と実益を兼ねる: 写真が趣味の人が、スキルを活かして副業でカメラマンを始める。
- 節約と時短を両立する: 一度に大量の料理を作り置き(ミールプレップ)し、未来の食費と調理時間を節約する。
これらは全て、機会費用を巧みにコントロールし、意図的に「一石二鳥」を生み出している例なのです。
深掘り・豆知識
ことわざの由来と経済学の雑学
「一石二鳥」は、17世紀のイギリスの思想家、トーマス・ホッブズの著作に登場する「kill two birds with one stone」が語源とされています。世界中で同じような発想が生まれているのは面白いですね。
さて、機会費用に関連する経済学の面白い雑学を一つ。 皆さんは「比較優位」という言葉を聞いたことがありますか?これは、「他の誰よりも『機会費用を低く』、あるモノやサービスを生産できること」を指します。
例えば、弁護士がタイピングも秘書より速いとします。しかし、弁護士が1時間タイピングする機会費用は「弁護士業務で稼げたはずの高い報酬」です。一方、秘書の機会費用はもっと低いでしょう。だから、弁護士はタイピングを秘書に任せ、自分はより生産性の高い(機会費用の大きい)弁護士業務に集中した方が、全体として得をするのです。 この「比較優位」の考え方は、個人のタスク管理から国家間の貿易まで、あらゆるレベルで「一石二鳥」的な効率化を生み出すための基礎となっています。
今回は「機会費用」という考え方を使って、行動の価値を最大化する方法を考えました。しかし、ビジネスや交渉の場では、そもそも相手との間に「情報の量や質の差」が存在し、知らないうちに行動の価値が下がってしまうことがあります。
こうした不利な状況を、たった一言の「質問」で解消する合理的な戦略について、こちらの記事で詳しく解説しています。経済学のもう一つの重要な視点に、あなたもきっと驚くはずです。

まとめ
今回の記事では、「一石二鳥」が単なる幸運ではなく、経済学の「機会費用」という概念を用いることで、意図的に生み出せる合理的な戦略であることを解説しました。
ある行動を選ぶことで失われる「他の選択肢から得られたはずの利益(機会費用)」を意識し、それを最小化する工夫を凝らすこと。これが、日常に「一石二鳥」を増やすための秘訣です。
あなたもぜひ、「この時間の機会費用は何だろう?」と考えてみてください。きっと、新しい価値を生み出すヒントが見つかるはずです。もちろん、どんなに賢い戦略を立てても、挑戦に失敗はつきものです。そんな逆境を乗り越え、挑戦し続けるための心の持ちようについては、こちらの記事がきっとあなたの支えになります。

皆さんの周りには、どんな「一石二鳥」がありますか?あるいは、この記事を読んで「これも一石二鳥かも!」と気づいたことがあれば、ぜひコメントで教えてください!
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